三島由紀夫の草稿研究の成果を以下の著作にまとめた。 『三島由紀夫 豊饒なる仮面』(新典社) 本書は、三島由紀夫の草稿、特に初期の詩篇、未完の短篇小説、中後期の創作ノート、書簡類の分析研究を踏まえた上で、三島文学の全貌を見通す評伝である。このような視点からの三島評伝は、これまでにない試みである。 「三島由紀夫研究(8)英霊の声」「三島由紀夫研究(9)歌舞伎」(鼎書房) 『豊饒の海』創作ノートのうちこれまで未発表だった「奔馬(刑務所)」ノート全篇、および「大神神社」ノートの一部を、佐藤秀明氏、工藤正義氏とともに翻刻掲載した。 「『英霊の声』と『悪臣の歌』」(「三島由紀夫研究(8)英霊の声」所収) 「英霊の声」と、その草稿である「悪臣の歌」とを比較分析して、三島の晩年思想の形成過程を具体的に跡付け、ひいては日本の近代精神史について考察を深めようとした。この試みも、これまでの研究史にない試みである。 また、次年度の研究のための準備として、草稿全般を扱う方法論に関して、フランスにおける生成研究や編集文献学、および哲学(特にガダマーの解釈学)などについて研究した。特にフランス生成研究に関してはPierre-Marc de BIASIのLA GENETIQUE DES TEXTESなどの文献の日本語への試訳を行い、また編集文献学に関しては来日したPETER L. SHILLINGSBURG氏に草稿研究をめぐる疑問点を直接尋ねることができた。 またパリ第七大学の井関麻帆氏には、研究協力者としてフランス、スイスにて、主としてルソーを対象に草稿研究を進めてもらった。
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