本研究は、あらゆる職業や立場で西洋に渡った日本人旅行者たちの、西洋紀行文や西洋案内記、日記などを対象に、その西洋に対する視線を総合的に探究することを目的としている。イタリアは、ローマという古都および、ローマ法王を中心にキリスト教文化の中心としての長い歴史を持ち、さらに、イタリア諸都市のイメージが、ローマという一都市に集約されず、それぞれ個性に富み、旅行者に多彩な印象をもたらす土地であったことが特徴的である。 本年度の具体的作業としては、書籍として出版されたイタリア旅行記に含まれるイタリア関係記事を収集する作業を継続した。また書籍の現物所在を図書館等において確認し、記事を複写し、それらを西洋紀行文・西洋案内記関係書籍一覧としてデータベース化した。さらにこれらイタリア関係記事複写を、PDFファイル化する作業をも継続した。最終年度の本年は、これらを完成させることができた。そのデータベースに基づいた、イタリアの特殊性と共通性とを明らかにする作業として、「学者の観察-日本人旅行者の見たイタリア(5)-」(『人文学』第186号、pp101-124)として公表した。 また、2010年9月16日に、イタリア・ナポリで開催されたAISTUGIA(伊日研究学会)において、基調講演「食通文学の記号学-日本人が、見て、食べて、飲んだイタリア-」を招待講演として行った。その際ナポリ東洋大学、ヴェネツィア大学等の日本研究者たちとも交流を深めた。 結果として、当初の目的である日本近代におけるヨーロッパ・イメージの形成について、ヨーロッパの代表都市と目されるロンドンやパリ、ベルリンとの対照から、留学とは別に、観光というもう一つ別の重要な源泉があったことを確認することができた。また、文献研究資料としてのヨーロッパ旅行記の重要性を改めて確認することができた。
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