今年度は絵画の動物表現と中世歌謡の関わりとして、燕に注目して調査を行った。平安後期の『梁塵秘抄』には、さわがしく、また、恋する鳥としての「燕」が登場している。一方、室町後期の『閑吟集』には、仏教的な趣を持った鳥として燕が登場する。このような燕の性格について、従来、五山文学との関わりが指摘されてきたが、同時代の絵画とその画賛に目を向けると、仏教者が、悟りの境地を燕の自由な飛翔の様に重ねている例が見いだされた。燕を仏心の鳥と見るのは室町期以外にはほとんど例のない把握であるが、歌謡と絵画に共通する発想として注意される。また、小歌に近しい芸能である能の中には、親子の情愛が深い鳥としての燕が登場する。これは『梁塵秘抄』に見える夫婦の情愛の深い鳥という把握から分化してきたものと思われ、同様の分化は雉についても起こっている。この研究成果は「中世歌謡の燕-情愛の鳥・仏心の鳥・吉祥の鳥-」(『磯水絵先生還暦記念論文集』和泉書院2011年3月)にまとめた。 さらに三年間にわたる研究の成果を取り込んだ『コレクション日本歌人選 今様』(笠間書院 2011年8月刊行予定)の原稿を完成させた。本書では、『梁塵秘抄』今様と絵画の関わりを個別の歌謡に即して論じている。 歌謡と絵画および意匠の関わりについては、まとまった先行研究がほとんどないため、本研究はそのテーマを追求するいくつかの手がかりを提示したという点で、一定の意義を持つものと思われる。
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