室町期、公武政権の主導による修験道再興事業が京の文化・芸能をも巻き込むかたちで展開したことを解明するという目的のもと、本年度は、1室町期修験道再興史年表の仕上げ、2熊野三山の図像表現の考察、3天台宗寺門派高僧伝における熊野信仰記事の考察、4 2008年度開催研究集会の成果公表、の4点を中心に研究を実施した。このうち1・3は作業を継続しているところだが、2については講演・発表というかたちでその成果を公表し、また4についてもほぼ準備が整っており、2010年度中に研究集会の発表に関連する論文を加えたかたちで学術図書を出版する予定である。 以下、2熊野三山の図像表現の考察について詳しく報告する。この考察では、室町期に制作された熊野宮曼荼羅(フリーア美術館本)や熊野権現縁起絵巻(逸翁美術館本・和歌山県立博物館本・田辺市教育委員会本等)の図像が、前代の図像をそのまま継承したものではなく、室町期の参詣儀礼や三山組織の実情にそって再構成されていることを解明した。宗教図像の異本の問題を、絵柄のバリエーションの整理という方向ではなく、それぞれのテキストが用いられた時空と儀礼に即して解明したところに意義がある。そしてこれらの研究成果を、(1)和歌山県立博物館特別展の講演で地元の方々に対して、また(2)イリノイ大学の研究集会でアメリカの研究者に対して公表した。研究成果の地域社会への還元、海外における日本文化理解の向上にも一定の役割を果たせたと考える。
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