本研究では、室町幕府や戦国大名の支援の下で修験の霊山が再興されたとき、都市に蓄積された経済力や文化によって、霊山が荘厳され、儀礼が再興される一方で、霊山信仰が都市にも浸透し、都市の文化形成に重要な役割を果たしたことを、学際的に議論し、解明した。 本年は最終年度に当り、2008年度末に開催した研究集会の報告とその後の研究成果に基づく論文集の刊行を最大の目標とした。諸事情により刊行時期が遅れたが、2011年6月に『修験道の室町文化』(川崎剛志編、岩田書院)を刊行する予定である。本書には、川崎剛志「室町前期における熊野三山の再興と文化興隆」「熊野参詣儀礼の図像化-フリーア美術館蔵「熊野宮曼茶羅」をめぐって-」、源健一郎「『平家物語』の諸本展開と寺門派修験-平家享受の場との交渉を視野に入れつつ-」、大河内智之「十五世紀の熊野における護摩堂本尊の造像と修験-本宮護摩堂と那智滝本山上護摩堂-」以下、国文学、芸能史、美術史の研究者による全10篇の書き下ろし論文を収める。 また、本研究課題とその成果が、修験道研究を牽引する宗教学、歴史学の研究者、さらには現代の修験者の間にも共有され、議論が深まることを図って、川崎が国際熊野学会大会で、室町期の京の修験寺院における縁起の類聚と再編の営為に関する講演を行った。その概要は「『両峯問答秘抄』の撰述に関する推論」と改題して、同会誌2号に掲載される予定である。
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