平家物語がどのような過程を経て成立したのか、あるいはその初期形態がどのようなものであったのか、という根本的な問題を明らかにするために、現存の語り本系諸本の中で比較的古態を多く留めていると評価されてきた屋代本平家物語(国学院大学図書館蔵)とその周辺の諸本について、書誌学・日本語学・歴史学等の多面的な視点から調査研究した。本年度は、まず問題の所在を見極めるために、4月に、平家物語の諸本の研究の分野で多くの実績を上げている佐倉由泰氏を招いて公開討論会を、また10月には、多ケ谷有子氏、内田康氏を招いて、シンポジウムを実施した。その上で各研究者がそれぞれの専門分野から問題を設定し、調査研究に当たった。9月、2月、3月に八坂系諸本及びその関係諸本の基本的書誌調査を実施し、調査結果とそこから得られたそれぞれの専門分野からの知見を報告発表した。調査対象は、右田毛利家本平家物語、長門本平家物語(赤間神宮蔵)、近衛本源平盛衰記、中院本寛永版、平松家本、京都府立総合図書館蔵屋代本巻2、京都府立総合図書館蔵百二十句本、京都府立総合図書館蔵八坂本、大前神社本とした。前年度の成果を踏まえ、屋代本とその周辺の本文の特殊な書誌形態と本文状況を明らかにした。次年度は、これまでの調査を踏まえ、さらに検討を重ねることを確認した。
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