本年度は、国立歴史民俗博物館蔵高松宮家伝来禁裏本・宮内庁書陵部蔵伏見宮家本・東山御文庫本から説話・縁起関係と見做すことの出来る作品を抽出した。現時点でのその総数は約110点である。必ずしも作品名が資料名として管理されていない場合(・複数点一括で管理されている文書群に含まれるなど)もあり、これらも含めて博捜するよう努めているが、来年度以降にまだ多少の増加も有り得ると見通している。 禁裡文庫に関わる目録として『禁裡御蔵書目録』が広く知られているが、他にも東山御文庫蔵『古官庫歌書目録』等複数の目録の存在が指摘されている。これら目録上の説話・縁起類記載状況調査も継続中である。目録に記載された典籍名が、どの現存典籍に当たるのかを比定することは大変困難であり、説話・縁起類も例外ではないが、特に高松宮家本の縁起の一部については書写段階の痕跡や、目録と現存本との繋がりを見出せた。 各作品の内容を吟味するための原本調査、あるいは写真による調査を行った。特に学術創成研究費による研究との連携により、東山御文庫本の縁起について一部調査を許可され、多くの知見を得た。書誌的な情報の検討からも、縁起類についての高松宮家本との関連は殊に密接で、特に後西・霊元両天皇による書写活動の中で、纏めて書写されたこと等が確認された。それぞれの作品の所蔵・管理の状況などに沿いつつ、今後広く研究者他の間で共有されるよう、本文情報の蓄積に努める。 個別の作品研究としては、高松宮家本『十一面観音縁起』について、これが文章博士でもあった高辻豊長が関わりつつ、後西天皇の周辺に伝来したものである可能性を呈示した。
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