今まで同様、「モダニスト四重奏文学の共時的分析」全体の研究を進めながら、海外の査読付き学術誌からの出版を少しずつ実現し続けてきた。平成24年度は、アメリカの学術誌_Notes on Contemporary Literature_の査読に合格した "Secret Function of a String Quartet in Doris Lessing's _The Golden Notebook_"を仕上げて出版した。この論文では、基本的に4つの異なる色のノートブックの複雑な絡み合いから構成されるDoris Lessingの巨大な小説が、実は、弦楽四重奏と錬金術のイメージの中でダイナミックに展開されているという指摘をし、丁寧な分析を示した。これは、この研究課題に登場するモダニズム期(前後)の四重奏文学作品の中で、ほとんどのタイトルに "Quartet"という単語が含まれていたり、あるいは、内容が音楽や四重奏と深く関係していたりするという傾向と違い、表面的には音楽や四重奏のイメージはほとんど目につかないにも関わらず、じっくりと分析してみると、そのイメージが水面下で非常に重大な役割を果たしているという点で、とてもユニークである。また、この点が、この時代における四重奏のイメージの柔軟さや重要性をさらに証拠付けることになっている。5年間に渡って取り組んできた研究課題「モダニスト四重奏文学の共時的分析」から、研究的にも歴史の流れという点でもその延長線上に位置する次のテーマ「20世紀半ばのカルテット的世界観の分析」が生まれ、平成25年度からの5年間は、この新しい研究課題に取り組むこととなった。
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