1.アメリカ文学史において「求婚小説」という文学ジャンルを確立すること、およびその歴史的流れを示すための資料の収集については、夏期に行ったニューヨーク市立図書館での調査において、18世紀から19世紀半ばに書かれた求婚小説の収集を行い、現地でなければ入手できない非常に貴重な作品や当時の「求婚マニュアル」などを入手することができた。また、春期に行った同志社大学アメリカ研究所における調査では、家族史などを含む結婚制度の歴史に関する資料と女性文学研究の古典的な研究書などを収集することができた。これらの調査を通じて、求婚小説が予想をはるかに超える量の作品群を形成していることが判明したが、同時にSusanna Rowson、 Catharine Maria Sedgwick、 Harriet Beecher Stowe、そしてE.D.E.N. Southworthなどが、アメリカ求婚小説の伝統の中心的な担い手であることの予想がつくようになった。来年度以降は、これらの作家についての調査・研究に焦点を当てるつもりである。このような資料収集と調査を踏まえながら、「求婚小説」の定義、文化的位置づけ、そして文学史的意義について考察を深めることができた。ハリエット・ビーチャー・ストウの『牧師の求婚』を題材にした研究発表1件、論文1件は、その成果である。 2.本年度の研究目的ではなかったが、「共和主義パラダイムで語るアメリカ近代化の歴史」研究のもうひとつの視軸である「エスニシティ」について基礎的な成果を上げることもできた。ワシントン・アーヴィングの歴史物語をとりあげ、19世紀以降のアメリカ民主主義の発達が、多民族多文化主義的な過去を抑圧する代償を伴っていたことを示唆する研究発表1件、論文1件を出した。
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