研究概要 |
本研究は、モダニズム期に行われた自己表象をめぐる理論構築の過程を、同時期の自伝的テクストの調査、収集、及び分析を通じて検証することを目的として開始された。その方法としては、まず第一に、英語圏のモダニスト作家の自伝を執筆状況や草稿の調査も含めて緻密に分析すること、第二に、20世紀前半の英語圏で大量に生産されていた一般市民による回想録あるいは移民の手記といった類のテクストの出版と受容の状況を調査し、自伝というジャンルが同時代的にはどのような社会的意味を持つものであったのか、明らかにしていくことを計画していた。 平成20年度は、主としてヴァージニア・ウルフの自伝の分析及び現代批評に関する資料収集を行った。ウルフに関しては、死後出版された『存在の瞬間』(Moments of Being, 1976)収録の自伝的テクストの断片を大英図書館、サセックス大学図書館所蔵の草稿から調査した。また、これらの自伝テクストとウルフの創作論や小説中で展開される「身体」や「関係性」に基づく自己理論、『オーランドー』や『ロジャー・フライ』などの「伝記」テクストを見直し、ウルフの自己理論の全体像を把握しようと試みた。その成果は、所属研究科の紀要『言語社会』に「モダニズムと(反自伝)--ヴァージニア・ウルフ『過去の素描』を読む」という論文として発表した。 本年度はまた、英国図書館において、1900年から1950年までの英語圏で出版された自伝、回想録、手記等の調査を開始した。とくにこの時期における中東女性の自伝的出版物の中に、興味深い文献をいくつか発見することができ、21年度以降の研究に向けて新たな課題が生まれた。
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