本研究の目的は、モダニズム期に行われた自己表象をめぐる理論構築の過程を、同時期の自伝的テクストの調査、収集、及び分析を通じて、デカルト的コギトとは異なる新しい自己モデル、人種やジェンダー、セクシュアリティといった社会的要因によって規定される「自己」が構築されるプロセスを検証することである。平成21年度は夏期に英国に滞在し、英国図書館で1900年から1920年代における移民女性の自伝的テクストの収集と調査にあたった。調査の収穫としては、ピエール・ロティの小説の登場人物のモデルとなったハヌーム姉妹の著作、及びハヌーム姉妹と交友があり著作の刊行を手助けしたイギリス人女性グレース・エリソンの著作に出会うことができた。また、同時代に英語、フランス語で執筆されたトルコ女性の著作を発掘し、1900年代の終わりにイスタンブールへ旅行し旅行日記を残したヴァージニア・ウルフの思想と「イスラム女性」のつながりにも関心を抱いた。 平成21年度はまた、言語社会研究科において研究プロジェクト「トランスアトランティック・モダニズム」を立ち上げ、このプロジェクトの代表者として3回の講演会を企画し、研究科の紀要『言語社会』に特集を企画、執筆、編集した。このプロジェジェクトを通じて、モダニズム・モダニティの概念を時間的、空間的に再考するという作業を開始した。また、9月にランカスター大学で開催された国際学会で口頭発表を行い、現代のポストコロニアル文学における自伝性の問題を「近代性」という視点から再検討するきっかけとなった。学会発表の原稿は現在論文として書き直している最中である。
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