本研究の目的は、写真の多様な特性に焦点を当て、19世紀アメリカ文学論と写真論との結節点に立ち現れる新しい文学の読みの可能性を探求することである。今年度の取り組みの一つとして、ヘンリー・ジェイムズと写真の親和性に関する研究をおこなった。ダゲレオ写真の魔術的・疑似科学的特性と複製写真のリアリスティックな特性に焦点を当て、ジェイムズの大量消費社会における時代認識や彼の美学意識を読み解いた。この研究を中・四国アメリカ文学会秋季研究会にて、「ヘンリー・ジェイムズと写真-『悲劇の美神』を中心に-」と題して、発表した。またこの研究発表を基にした拙論を所収する『『悲劇の詩神』研究-「読み」の可能性を探る』(仮題)(彩流社)が刊行予定である。二番目の取り組みは、ジェイムズ以外のアメリカ作家の研究である。19世紀アメリカ作家の文学作品に与える写真の影響関係を示す俯瞰的な「地図」作りを行うため、異文化情報ネクサス研究会年次大会にて「19世紀アメリカ文学と写真」と題した研究発表をし、当該研究全体に対する理解を深めた。3月には、ハーヴァード大学図書館、ニューヨーク市立図書館、ソロー・インスティチュートにて、主に、ホイットマン、ポー、トウェイン、ホーソーンと写真の関連性を裏付ける文献・資料の収集に努め、2009年度以降に随時研究成果を発表する予定である。また、『実像への挑戦-英米文学研究』(音羽書房鶴見書店、印刷中)に所収されるジェイムズの『黄金の盃』論には、本研究の研究成果の一部が寄与している。
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