本研究は、19世紀のアメリカ文学における写真の多様な特性に焦点を当て、各作家の写真の受容形態、あるいは写真が作品内に担う役割について考察し、視覚文化の視座から文学解釈を試みることを目的としている。今年度は、南北戦争時における歴史としての写真と戦争小説の影響関係と、証拠としての写真と探偵小説に関する研究を中心課題として取り組んだ。3月には2週間にわたり、ハーヴァード大学のホートン、ラモント、ワイドナーの各図書館にて、南北戦争時の資料収集ならびに論文執筆に従事した。研究成果としては2008年度に中・四国アメリカ文学会秋季研修会にて行なった研究発表に基づき、「消失する銀板写真と複製される写真-ジェイムズの美学と現実の感覚-」と題した論文を同学会誌『中・四国アメリカ文学研究』第46号に掲載する運びとなった(校正中)。また、欧米言語文化学会関西支部例会にて「対置する写真-The Tragic MuseにみるJamesの過去の感覚」と題して研究発表を行ない、19世紀後半の大量消費社会における写真と芸術との位置づけについて考察した。教育効果としては、ノートルダム清心女子大学英語英文学科の専門科目「米国文学III」のなかで、当該研究の成果を踏まえて、19世紀アメリカ文学に及ぼす写真の影響について論じた。また、2009年6月には拙論「接合/分節と蒐集の力学-ヘンリー・ジェイムズの『黄金の盃』論」が所収された図書『実像への挑戦-英米文学研究』(音羽書房鶴見書店)が出版された。
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