本プロジェクトの初年度は主に(1)歴史文献の収集と読解、(2)南太平洋文学作品の読解と分析、(3)南太平洋の作家とのコネクション作り、の3つを中心に行い、21年度、22年度のための基礎研究に注力した。歴史文献に関しては、19世紀から20世紀にかけての旅行記、とりわけBeatrice Grimshawによる南海文献を読み解いた。彼女のテクストは、19世紀中頃までに形成された南太平洋のイメージを表象方法や関わり方を変えながらも、本質的にはほぼそのままの形で20世紀へと移譲した点で注目に値し、特に20世紀半ばにかけて映画と観光産業が共謀した「南太平洋の楽園」というイメージの固定化を探るためには重要な資料となる。 南太平洋作品はAlbert Wendtの作品を足がかりに、太平洋文学の第一世代にあたるEpeli Hau'ofa(小説)、Sudesh Mishra(詩)、Larry Thomas(戯曲)、現代女流作家であるSia Figiel(小説、詩)、Frances Koya(詩)といった作家の作品を読み進め、南太平洋文学の多様性とそこに通底するテーマを考察した。文学表象の多様性については当初予想していたよりも、バラエティに富んでいることを確認した。とりわけ、3月の3週間にわたる太平洋地域での滞在において南太平洋文学を訪問した際、多くの文学批評家や作家と親交を得、彼らとのインタビューや意見交換によって、新たな作品の発掘や、主題の変遷に関する世代間の態度の差異などを発見できたことは本年度の大きな収穫だった。また、オークランド大学での資料収集で得た知己を通じて可能となったAlbert Wendtとの親交は、今後の研究計画において重要な意味を持つと期待できる。
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