平成21年度は前年度に引き続き、太平洋文学の関係者への個別接触、関連資料の収集と分析を中心に活動した。今年度の最大の成果は、太平洋世界に大きな影響をふるう作家と親交を持てたことである。申請者はオークランドとハワイにおよそ20日間滞在し、オークランドにおいては太平洋文学を代表する作家Albert Wendt、ハワイでは劇作家・映画監督のVilsoni Herenikoとのインタビューを行った。とりわけWendtへのインタビューは彼の作品の大半を網羅した内容で、太平洋文学の第一人者が自己の軌跡をどう表現し客体化しているかという点において貴重な資料となりうる。 資料収集は、主にオークランド大学とハワイ大学で行った。ハワイ大学は文献もさることながら、太平洋関連のドキュメンタリーや映画などの映像関係についても数多くの収蔵があり、10日弱の滞在ではその一部を確認したにすぎないが、それでも太平洋世界の概要を把握するうえで有用な資料を入手することができた。 こうした活動の一方で、学会発表と論文というかたちで具体的な成果を出した。第61回日本英文学会中部支部大会(2009年10月17-18日、愛知学院大学)においては、「太平洋文学の『語り』:Albert Wendtが描くポスト・コロニアリズム的主体の可能性」という題目で、Black Rainbow(1992)のナラティヴ手法と太平洋世界の政治性との関連を発表した。また、「太平洋文学の第一世代小説家:エペリ・ハウオファとアルバート・ウェント」(『言語文化論叢』、2010)では、太平洋文学の第一世代のWendtとHau'ofaを比較しながら、両者の作品に通底する西洋への態度を論じた。
|