本研究は、1930年代以後、儒教書の翻訳や評論の執筆により、現代西洋社会に儒教的秩序と道徳の復活を促すとともに、ムッソリーニおよびファシズムへの傾倒を強めたアメリカ詩人エズラ・パウンドの儒教受容とファシズム支持の連動性を分析し、また、彼の革新的詩法「表意文字的手法」が、儒教及びファシズムへの傾倒に伴い、後退する過程を明らかにすることを目的とする。 平成22年度には、平成21年度に継続して、1940年出版の「中国詩篇」の分析を行い、「中国詩篇」の一部の翻訳および注解を行った。概要および研究成果は次の通りである。 (1) 清の康煕帝と雍正帝の治世を扱った「詩篇60」と「詩篇61」における父子関係とそこに見られる「孝」の概念について検討することで、パウンドの儒教に対する態度を考察した。研究成果の一部を2010年6月に中華人民共和国杭州市にて開催された研究集会「モダニズムとオリエント」において口頭発表した。 (2) 先行研究における「中国詩篇」についての註はいまだ十分なものとは言えないため、「中国詩篇」の訳・注解を継続して行った。「詩篇60」の訳・注解を行った平成21年度に続き、平成22年度は「詩篇58」「詩篇59」、「詩篇61」を中心に訳・注解を行った。研究成果は平成23年度以降に発表する計画である。 (3) 1930年代のパウンドの思想動向についての研究の一部として、パウンドのThe Japan Times寄稿文等に見られるノスタルジアの諸相について検討した。研究成果は平成23年度に口頭発表する計画である。 (4) なお、「中国詩篇」(特に「詩篇60、61」)と同時期のエッセイ"On the Degrees of Honesty in Various Occidental Religions"とを比較し、パウンドの儒教への傾倒とファシズム支持の連動性について検討した論考(平成21年口頭発表原稿の修正版)が中国語に翻訳された。
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