本年度は「イギリス文学における文化形成と宗教的主題の研究」の最終研究年度であることから、18世紀から20世紀までのイギリス文学作品における文化概念形成過程と宗教的主題との関連についての分析結果の総合的総括を行った。本研究で明らかになったことは特に18世紀末から19世紀にかけて、イギリス社会においてはヨーロッパ諸国との植民地拡大などを中心とした社会的政治的葛藤や国内における社会改革運動の理想主義に存するある種の限界に対する認識がイギリス国民意識、国家意識形成に思想的影響を与え、このことはイギリス国民意識を統一するものとして文化概念主張の台頭を促したということである。この傾向は19世紀後半から20世紀にかけてさらに強まり、ダーウィニズムなどの科学的発展などを伴う宗教的懐疑などの影響により、文学的主題におけるイギリス文化概念はその宗教的主題と共にその意義が証明される。20世紀文学においては、トマス・ハーディーから1960年代後半以降における宗教的主題への回帰の文学的思潮の影響があり、イギリス文学における主題はその文化的宗教的側面においてさらに複雑な構造をみせる。本年度は以上の研究総括を研究代表者が行い、特に19世紀以降文学における分析は研究分担者が行った。以上の研究結果は国内及びイギリス大英図書館、ノッティンガムトレント大学図書館などで行い、研究成果の一部は論文及び国内学会において発表した。イギリス文学におけるこの思想的変容は、例えば、特にフランス革命以後、理想主義観念を体現する社会的改革を継続発展するフランス社会などの観念論中心の思想的変容とは異なり、宗教的哲学的社会的要素を含む文化的思想形成という点において特殊な性質を有すると仮定でき、本研究はさらにヨーロッパ社会の近代的思想発展におけるイギリス文化思想発展の方向性を体系的に明らかする研究課題として発展予定である。
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