ビッグ・ハウスとは、アイルランドにおけるアングロ・アイリッシュ・プロテスタント支配階級の邸宅の総称であり、これを主題とする文学はビッグ・ハウス文学と呼ばれる。本研究の目的は、20世紀ビッグ・ハウス文学の中心となるエリザベス・ボウエンと、その後に続くモリー・キーン、ウィリアム・トレヴァー、ジョン・バンヴィルらの作品を現代批評理論で分析し、これらが伝統的ビッグ・ハウス小説とは異なるモダニティ・革新性を持つことを実証して新たな批評を構築し、過小評価されてきたビッグ・ハウス文学に正当な評価と文学的地位を与えることである。 昨年度まで、フェミニズム批評、表象批評、物語論等の批評理論を用いてポウエン、キーン、トレヴァーの作品を分析してきたが、今年度は新たにバンヴィルを研究対象に加えた。大英図書館で彼の草稿、インタビュー録等の資料を収集し、これらを活用して「旅の文学として読む『バーチウッド』-ポストモダニズムの研究」を論文化した。 ここでは、バンヴィルのポストモダニティを明らかにすると共に、ボウエンやトレヴァーの特質と比較考察した。 その結果、モダニスト作家のボウエン、キーン、トレヴァーは、19世紀エッジワースに始まるビッグ・ハウス文学の伝統を継承しつつ、そこに新たにモダニティを加えていこうとすることが判明した。これに対しポストモダニストのバンヴィルは、この文学を諷刺し転覆させようとする。彼はビッグ・ハウス文学の旧弊で陳腐化した慣行を打破し、より刺激的で新しいポストモダニズム文学を創造しようとする。これもまたビッグ・ハウス文学再生への試みである。 これらの結果をさらに体系化して新批評にまとめ上げるところまでは時間的制約のためできなかったが、これについては次の研究につなげたい。
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