今年度はルイ・マクニースの詩を熟読した。マクニースは、1960年代以降の、いわゆる「北のルネッサンス」と呼ばれた詩人たちに先行する世代に属し、後続詩人に大きな影響を及ぼした存在である。それゆえ彼の詩と詩論の研究は本テーマにおいてきわめて重要な意味を持つ。マクニース研究は、まだ具体的な形になっていないので、まずは次年度に口頭発表をしたい。また、北アイルランド詩を扱うに際し、アイルランド島における当地の特殊性(地理的、歴史的、文化的における)はつねに念頭に置かなければならない。これについては次年度4月に行なう招待講演においてテーマとして挙げ、研究のさらなるきっかけをつかみたい。本年度は海外出張において大きな収穫があった。6月にシェイマス・ヒーニーが出身地で行った詩の朗読会に出かけた。学期途中のため現地滞在わずか2日間というタイトな日程だったが、詩人本人だけでなく、親族、地元住人と懇談する機会を持てた。地元開催ということもあり、ノーベル賞受賞詩人ヒーニーの「素顔」に触れられ、まことに貴重な経験となった。今後も詩人自身、そして、地元住民とのつながりを大事にしていきたい。本年は論文を二本書いた。一つはT.S.エリオットについて。エリオット研究は北アイルランド詩研究と直接結びつくわけではないが、20世紀の大詩人エリオットの影響を受けていない現代詩人はいないほどであり、北アイルランド詩人も例外ではない。論文では都市と詩の問題をおもに扱った。また、もう一つの東北詩人について。これも地域性、土着などという点で北アイルランド詩人研究と通底する。口頭発表(招待講演)ではヒーニーの詩劇『テーベの埋葬』を扱い、その作品の原作であるソボクレスの『アンティゴネー』が、北アイルランドの歴史、社会、文化のなかでいかなる意味を持つかを再検証した。その際ヒーニーの想像力のあり方を、先行詩人パトリック・カヴァナの「教区主義」を引用しながら論じた。同じくヒーニーがソボクレスの作品(『ピロクテテス』)を翻案・翻訳した『トロイの癒し』も本年熟読したので、これについても次年度論じたい。
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