本研究課題の最終年度である平成24年度は、論文ではルイ・マクニースを取り上げた。マクニースは北アイルランド現代詩の一源泉ともいえる詩人で、とりわけ、プロテスタントの背景を持つ詩人に対する影響力は大きい。拙論では、北アイルランドという、英国とアイルランドの二面性を持つ土地に生まれ、英国本土で教育を受け、活躍した詩人が抱えるアイデンティティの二重性やジレンマについて、当地の歴史や社会状況を詳述しながら論考した。本論は今後の研究対象となるマイケル・ロングリー(マクニース詩集の編者でプロテスタントの背景を持つ北アイルランド詩人)研究の契機となり、また、「北アイルランドの詩的想像力」という全体的テーマの中でも大きな位置を占める。これまで、サミュエル・ファーガソン、ジョン・ヒューイット、シェイマス・ヒーニー、ポール・マルドゥーンと、北アイルランドに関係した詩人たちについて論じてきたが、これにマクニースが加わり、残す研究対象は、予定ではあと4人となった。最終的には一冊の研究書にまとめる予定であるが、これまで5年間の研究期間で着実にその目標に向かって進むことができた。 また、本年は北アイルランドのインターフェイスという、新しいテーマの研究もすすめた。本テーマについての論文は平成23年度に書いたが、本年度はそれを継承、発展する形で口頭発表を二度行った。本テーマについても現地で撮影した写真を添え、写文集という形で出版したいと考えている。 最後に、翻訳ではあるが、現代英詩を代表するT.S.エリオットの『荒地』(1922)を訳したことを記したい。エリオットはアイルランド、北アイルランドなど地域にかかわりなく、広く英語で詩作する現代詩人に依然として大きな影響を与えており、エリオット研究は現代詩研究に直結する。エリオットの詩と詩論の翻訳も続ける予定である。
|