研究概要 |
23年度は、Eugene O'Neillの劇作品のうち、The Iceman Cometh, Beyond the Horizon, Long Day's Journey into Night, Hughie, The Great God Brown,等の作品を中心に関連資料の収集調査及び通読を行ない、作品の分析を進めた。その中で、The Iceman Cometh及びHughieについては、月刊演劇雑誌に連載エッセイの形で発表した。前者は妻殺しの男、後者は賭博師を主要人物とする作品であるが、彼ら反社会的人物の物語が映し出す現代アメリカ社会・文化の偏向した様態について論じた。これら二人の人物に共通するのは、その反社会的な悪党的仮面の下に、心やさしく気前のよい素顔が見え隠れすることである。彼らの気前のよさは、資本主義発達以前の贈与社会において人間共同体を結束し維持する要であった「贈与の精神」を髣髴させるものであり、それ故に、彼らは箸にも棒にもかからぬやくざな存在であるにもかかわらず、売買の市場原理で動く現代アメリカの資本主義世界に対する奇妙な批判者たり得ているのである。このエッセイの論点を核として、これら二作品についてより大きな論文としてまとめることを次の作業として早急に行なうべく準備中である。また、O'NeillとO'Neill以降のアメリカ劇作家の関連を探る作業において、特に、Tennessee Williams, Sam Shepardの作品及び関連文献の収集・通読も大いに進めることができた。なお、その作業の派生的成果として、Williams後期の最重要作品Out Cryの翻訳を出版することができたことをここに付記しておく。
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