研究概要 |
平成21年度は、本研究の第二段階として、おもに翻訳理論に焦点を当てた研究を行った。 まず翻訳理論の概念の構築を行うに際して、ポストコロニアル理論とのリンクを試論として展開し、Lawrence Venutiら現在も活発に批評活動を行っている研究者の「批判理論」を軸にした観点にたった研究として、成果を通訳翻訳学会で発表した。ポストコロニアル理論とのリンクで注視したのが、ポストコロニアル批評家の中でも特にEdward Said, Gayatri Spivak, Homi Bhabhaである。前者2人のポストコロニアル理論における新たな視点を翻訳理論に応用して翻訳における「他者性」の問題をポストコロニアル理論に繋げる視座をまとめたのが『紀要』に発表した論考「『他者』を語ることば:翻訳論の現代的課題」である。 その翻訳理論をもとに、次の段階では、研究課題でもある現代英語翻訳文学に応用する目的で、母語の喪失から「自己」翻訳としての自伝を書いて高く評価された作家Eva Hoffman研究に着手した。2009年夏に実際にHoffmanへのインタビューが実現したことで本研究の方向性が新たに示唆され、彼女の代表作となったAfter Such Knowledgeの翻訳を行いながらナラティヴ論の研究を展開することが2010年の課題である。研究方法としては、翻訳の行為を通して、著者とのフィードバックを行いながら、そこにどのような「他者性」の表象が顕現してくるかに注目する。その際に有効だと思われるポストコロニアル理論は、上記の3人の批評家の中でナラティヴに注目しているHomi Bhabha、さらに英国Manchester大学で翻訳のプロジェクトを推進しているMona Bakerである。両者の研究を考察しながら、現代翻訳文学とポストコロニアル理論の相互作用への考察を最終年度の課題とする。
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