シェイクスピアの道化の表象を研究するにあたり、まずは上演研究の方法論の確固たる把握を目指して、昨今の批評理論の上演研究への影響を調査した。その結果、日本シェイクスピア協会第47回大会におけるセミナー「シェイクスピア上演・上演研究の今」にて、道化研究に必須と考える身体論および観客論を応用した研究発表を行った。発表に基づいた論文は2009年中に出版される。道化の舞台での具現化を論じる上で重要な身体論に関しては、英国のフィジカル・シアターに深い影響を与えたジャック・ルコックのアプローチなどに関しても調査を行った。2008年夏には英国エジンバラにて開催されたエジンバラ・フェスティバルにおけるシェイクスピア作品の上演の最新動向および道化やクラウンの表象、フィジカル・シアターにおける身体性に関して調査を行った。日本においては、蜷川幸雄がロイヤル・シェイクスピア・カンパニーと共作した『リア王』、りゅーとぴあ能楽堂シェイクスピアシリーズ『リア王-影法師』、蜷川幸雄演出の歌舞伎版『NINAGAWA十二夜』などの作品における道化の表象に注目して分析を進めた。現在、蜷川幸雄演出の『リア王』二作(前述の英語版と平幹二郎主演の日本語版)における道化の表象に関する論文を執筆中である。このように、本年度中には方法論の特定、現在の日本および英国の上演における道化の表象の傾向を分析し、次年度以降の研究の足場を確立できたと考える。来年度は、観客側の受容の解明を目指して特定の上演作品の分析を試みる一方、本年度中に手がつけられなかった過去の道化、シェイクスピア時代の道化、さらにヨーロッパの伝統の中に息づくクラウンやコメディア・デラルテにまで調査を進めて行き、最終的な目標であるシェイクスピアの道化の再生の可能性を探りたいと考える。
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