本研究で注目しているアイルランド小説における女性身体と女性空間については、19世紀初頭から登場したビッグ・ハウス小説と呼ばれるアングロ・アイリッシュ・アセンダンシーの館を舞台とした小説群において、興味深い扱いがなされている。そこには、アイルランドにおける中世からの伝統を引き継いだ女性像や、イギリスによるアイルランド支配のあり様からの影響が読み取れる。初年度にあたる20年度には、主として18世紀前半から19世紀半ばにかけての散文や小説に注目し、女性表象を支える伝統を踏まえた考察を行った。具体的には、次のような成果を上げることができた。 1.ビッグ・ハウス小説に深くかかわる館をアイルランド各地で取材し、歴史的建造物としての理解を深めた。⇒雑誌論文として発表 2.作家ジョナサン・スウィフトとマライア・エッジワースを軸として、18世紀前半から19世紀初頭までの女性表象について論じた。アイルランド国立図書館所蔵の貴重な資料により鍵となる事実を掴むことができた。⇒論文集所収の論文として発表 3.独特の土地柄をもつ西アイルランドのコネマラを支配した地主一族に注目し、最後の当主となった女性とその文学的扱いについて論じた。⇒研究発表にて発表 4.上記のコネマラへの旅行記に注目し、男性だけでなく、女性の旅行者が空間移動の中でいかなる物の見方をしていたかを論じた。⇒研究発表にて発表 5.20世紀のビッグ・ハウス文学関連の学会(ロイヤル・アイリッシュ・アカデミー主催)に出席し、最新の研究状況への理解を深めた。⇒雑誌論文として発表
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