本年度の研究で取り組んだ課題は次のとおりである。 1.19世紀のアイルランドにおいて、辺境の地として捉えられていたコネマラ地方に関わりのある文学作品に焦点を合わせ、そこに描かれる女性表象とアイルランド性について考察を深めた。具体的に対象とした作品は、Maria Edgeworthの旅行記、Charles Leverの小説、および、この地方を治める地主の娘であったMary Martinの小説である。これらのビッグ・ハウスに関連のある作品をとおして、The Princess of Connemaraと呼ばれたMary Martinがアイルランドを象徴するような人物としてイギリス全土でどのように受容されていったかが明らかとなってきた。19世紀後半に民族主義運動が高まりを見せる以前、女性性がアイルランドという地との関連でいかに捉えられていたかを解き明かすことは、19世紀のアイルランド文学の流れを理解するのに有効な視点を加えるものになると思われる。アイルランドでの資料収集や取材が有効であった。 2.20世紀の最後の四半世紀から21世紀にかけてのビッグ・ハウス小説に焦点を合わせ、女性の病とナラティヴの関係性について考察を深めた。ビッグ・ハウスという空間において女性の精神疾患が繰り返し描かれるが、そこにライフ・ヒストリーやナラティヴ・セオリーの視点を導入しながら、現代小説における女性の空間と身体の問題がビッグ・ハウス小説の枠組みの中でどのように扱われてきたのかを解き明かした。次年度は、時代をさかのぼりながらのより多くの対象作品を考察し、研究の継続を予定しているテーマである。 それぞれの研究内容の一部は、研究発表や論文などで発表した。
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