研究概要 |
米国テキサス大学Harry Ransom Centerにおいて、Willamsの未発表原稿を調査、考察した。多くの改訂を重ねたIn the Bar of a Tokyo Hotel、The Milk The Milk Train Doesn't Stop Here Anymore,その他60年代以降の作品の初期草稿を検討・調査した。その結果、日本演劇の要素を駆使した実験的技法を試みようというWilliamsの意図が、アメリカ演劇のシステムに迎合することで、次第に軟化していったのではないかと考えられる。The Day on Which a Man Diesにおいては色濃かった能の要素-登場人物を個としてではなく、人間の感情や観念の象徴として舞台に配置するという劇的手法-が、In ten Todyo Hotelにおいては希薄になり、西洋写実演劇の枠組みに近いものになっている。これは、60年代に入ってから、その劇作意図を大衆に受け入れられなかったWilliamsが、自身の芸術の理想と、観客や批評家との間に存在するギャップに苦悩しながら、徐々に実験的技法を削減していった結果の表れである。In the Bar of a Todyo Hotelの初期原稿には、1969年上演版とは異なり、主人公の夫婦をMarkとMirlamではなく、The Woman, The Manと名づけ、個々の人物というよりは、芸術家の二面性を象徴した人物として配し、その点で能の根源的要素を彷彿とさせる構造となっている。これらの調査、研究結果を、論文と口頭発表において公表した。さらに、平成21年度5月31日には、日本英文学会全国大会のシンポジウムの講師として、上記の作品にThe Milk Train Doesn't Stop Here Anymoreとの比較検討も加えたうえで、ウィリアムズ劇における日本演劇にヒントを得た技法と芸術家の「死」のテーマの関わりを論じる予定である。さらに、平成20年11月には、国際アジア系アメリカ・イギリス文学学会において、歌舞伎に少なからず影響を受け、韓国仮面劇の要素を加味した作品であるRick ShiomiのMask Danceに関する口頭発表を行い、ウィリアムズ劇における日本演劇の要素を考察する上で関連性を見出すことができた。
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