本年度は平成20~21年度に引き続き、テネシー・ウィリアムズ劇における日本演劇の影響について研究調査を行った。特にThe Milk Train Doesn't Stop Here Anymore (1963)に注目し、平成22年度6月に、アメリカ学会全国大会で研究発表を行った。本作品は、日本演劇の要素を取り入れた実験的戯曲であり、外枠のアメリカ演劇とその補助的要素である日本演劇の主従関係が劇中で逆転し、アメリカ帝国主義に対するWilliamsの批判的眼差しを内包する。本作品には、歌舞伎の黒子からヒントを得た人物が登場し、みずからを主人公のアクションを補助する装置であると定義する。アメリカを象徴する主人公Goforth夫人と日本を象徴する黒子の関係は、一見芝居の主たる枠組み(アメリカ演劇)と、従属的装置である日本演劇の関係を表す。しかし彼らはまた、Goforth夫人を象徴するグリフィンの旗を挙げ下げすることで、彼女の生死を操る。つまりWilliamsは、日本演劇の要素(黒子)がアメリカ人主人公の生死を支配するという、主従関係の逆転が起きる状況を描き、それによってアメリカのリアリズム演劇の伝統を打破しようと試みているのである。また、本戯曲が執筆された60年代は、三島由紀夫との親交があった後であり、三島とWilliamsの間の日本演劇の議論がこの作品に反映されており、舞台装置、衣装などにも日本演劇の要素が色濃い。 また本年度は、Williams戯曲がアメリカ演劇におけるリアリズム劇から表現主義への転換期を担った劇作家の一人であるという観点から、アメリカ演劇リアリズムの「父」と評される19世紀の劇作家James A. Herneの戯曲研究にも取り組み、その成果を全国アメリカ演劇研究者会議、英米文化学会の大会で発表した。平成23年はWiliams生誕100周年であることから、日本アメリカ演劇学会の第一回大会(7月開催予定)において記念シンポジウムを行う予定であり、本年度の研究はその基礎根幹を成すものである。
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