本年は、平成20年(2008年)から開始された表題研究の二年目であり、引き続き、アメリカ独立革命期の建国神話がいかに構築され、建国の理念や矛盾が共和政期以降の大衆文学や文化において、いかに表象され、かつそれがどのように大衆に受容されていったのかを探った。各人の本年度の具体的な実績は、以下の通りである。 白川、林ともに、入子文子、林以知郎編著の『独立の時代-アメリカ古典文学は語る』(京都:世界思想社)に論文を発表し、それぞれメイソン・ロック・ウィームズの『ワシントン伝』、ジェイムズ・フェニモア・クーパーの『開拓者たち』における建国神話に関する考察を行った。(林は、「あとがき」において計9論文の総括的解説も担当執筆。) また白川は、ジョージ・リッパードの南北戦争前期の都市犯罪小説内にジャンル準拠枠を超え、アメリカ建国の遺産問題が表象されていることを示す口頭発表を行い、それ以外にも、アメリカ国璽の成立と共和政期の国家拡大に際する先住民政策についての論考を執筆した(現在印刷中)。 さらに林は、クーパーにおける建国神話表象に関して、今日、批評的にほぼ黙殺されているアメリカ独立戦争ロマンスLionel Lincolnを取り上げ、初期から中期のクーパー作品における国家の革命起源への一体化/距離化という複雑な相を捉え、論文として発表した。クーパーの他作品The Red Rover(1828)、Homeward Bound(1838)、およびHome as Found(1838)については、引き続き考察中である。
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