7年がかりになった現在の研究の前段階にあたる研究業績は2009年11月、Ashgate出版より無事学術研究書として出版された。これに関わる校正作業及び索引作成作業を2009年度の前半及び夏の一部にかけて行った。加えて、2009年の夏及び2010年の春、Univ.of Virginiaの図書館にこもり、集中的に研究を進めた結果、E.Whartonの『イーサン・フロム』のミクロ社会学的分析、とりわけ「不透明な関係性」、「ポーカーフェイス」、及び「習慣性」を中心に据え、作品分析を行った。 日常生活は(芸術的であると言ってもいいほど虚構性の高いものであるというE.ゴッフマンのミクロ社会学的な主張を基本に据え、このような日常を文学が正確に映し出しているという主張を当該研究者は行っている。これまでは、H.ジェイムズの作品分析を行い、この主張を「実証的に」裏付ける努力をしてきたが、今度はそのジェイムズが高く評価した作家たちに当てはめて分析する研究を行っている訳だが、オースティンの『高慢と偏見』論に続いて、次はホーソンの研究を行おうと考えていた。しかし、その前にウォートンの作品を是非加えてみるべきだと考えるに至り、2009年の『イーサン・フロム』論に続き、2010年度はウォートンの『無垢の時代』論に取り組む予定である。同じウォートンでも雪と氷の世界の中で展開される『イーサン・フロム』とは異なり、ニュー・ヨークの社交界を舞台としたこの作品は『イーサン』と好対照を成す。『イーサン・フロム』も『無垢の時代』も恋愛小説仕立てであるが、実際はどうか、そこをポイントに論文をまとめて行く予定である。 なお、2009年度はジェイムズに関する学会発表を一回行う。現在MLA学会に2本、NAVSA(North America Victorian Studies Association)に1本、学会発表申請中。当該研究の成果は最後に一冊の学術研究書にまとめて海外で出版したいと考えている。
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