研究概要 |
当該研究者は現実こそ虚構であるとするミクロ社会学的視点に立ち、作家たちの中にはそういう現実・社会を文学作品に忠実に再現していると主張している。ミクロ社会学理論を作品分析に採用するとどのような「読み」が出てくるだろうか。ヘンリー・ジェイムズという作家を対象に2002年頃から進めてきてまとめるに至った研究書(単著)Performing the Everyday in Henry James's Late Novels (Ashgate, 2009)の「結論」部分で、ジェイムズ以外の作家の中に同様なミクロ社会学的見方をする作家がいたのではないかと提案したが、現在は自らその主張を検証している。昨今、英米文学研究は哲学的、心理学的なもの以外では歴史や文化のようなマクロな次元の研究が多く、人と人とが対面する中で作用するミクロ社会学的なアプローチを真正面から取り上げた研究はなかった。ジェイムズに留まらず、多くの作家が「マクロ」な社会の規範と「ミクロ」な次元で作用する社会規範の重なり、衝突、あるいはせめぎあいの狭間で翻弄される人間の姿を描いたのでは。対象とする作家はジェイムズの他に、ジェーン・オースティン、イーデス・ウォートン、ナサニエル・ホーソーン、等。研究の目的としてはこれら作家の作品分析にミクロ社会学的視点を導入し、立体的、複合的な人間社会の様相を炙り出すことである。 2010年度はヴァージニア州立大学の図書館に集中的に籠り、また当大学の研究者と次々と懇談を行いながらEdith Whartonの『無垢の時代』論を2009年の『イーサン・フロム』論に続いて書きだした。この時の『無垢の時代』論の一部を2011年4月始めに開催されるNEMLA学会で学会報告を行うことが決まったが、残念ながら論文を仕上げるに至らなかった。ただし、現在の研究をまとめる大きなテーマとしてintimaciesというキー・ワードを採用することを様々な研究者との懇談を行う中、決定。
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