ロマン主義文学を、ヨーロッパ帝国支配、植民地支配との関わりの中で捉えることによって、1770年から1830年の間に書かれた文学、批評書、この間になされた講演の再評価を行った。ロマン主義の時代において、ヨーロッパの植民地支配が物質的にもイデオロギー上においても劇的な変化を遂げることに注目し、18・19世紀イギリス帝国支配の新しいシステムによって強力に形成されつつあった科学的知の体系を、ロマン派文学がどのように取り込み、またそれに対峙したのかを明らかにすることが本研究の目的である。その目的の一環として、詩人コールリッジが当時の生命科学をどのように理解し、それを彼がどのように自らの著作や文学理論の中で応用、展開していったのかを研究し、分析した。彼を取り巻く進化論をはじめとする科学的言説、病理学を調査し、それらが如何に詩人の『文学評伝』や『生命論』の中に吸収され、反映されていったかを、研究発表したうえで、論文にまとめ投稿した。 さらに、Sir William Jonesが創設した、アジア協会(the Asiatic Society)が1788年以降刊行した年刊誌the Asiatic Research、『アジア研究』の分析を行い、アジアの歴史、芸術、言語、文化等多岐渡る分野の調査報告を行ったJonesの著書とthe Asiatic Researchを通して、アジアにおける帝国の人文、科学的な知の探求という視点からも植民地支配とロマン主義文学を考察した。Sir William Jones自身の詩作品や旅行記などの著作が、Coleridgeらロマン派の言語観を形成する上で、如何なる影響を与えたのかを継続して調査、研究している。
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