研究概要 |
ロマン主義文学を、ヨーロッパ帝国支配、植民地支配との関わりの中で捉えることによって、1770年から1830年の間に書かれた文学、批評書、この間になされた講演の再評価を行った。ロマン主義の時代において、ヨーロッパの植民地支配が物質的にもイデオロギー上においても劇的な変化を遂げることに注目し、18・19世紀イギリス帝国支配の新しいシステムによって強力に形成されつつあった科学的知の体系を、ロマン派文学がどのように取り込み、またそれに対峙したのかを明らかにすることが本研究の目的である。その目的の一環として、アジアの歴史、芸術、言語、文化等多岐渡る分野の調査報告を行ったJonesの著書とthe Asiatic Researchを通して、アジアにおける帝国の人文、科学的な知の探求という視点からも植民地支配とロマン主義文学を考察した。 2011年7月16日-18日に神戸で開催されたコールリッジ国際学会においては、'Kubla Khan and British Chinoiseri : The Geopolitics of the Chinese Gardens'と題し、研究発表を行った。ここでは、1792年に派遣された英国初の対中国使節団による清の乾隆帝とその治世についての広範囲に渡る報告書と、それがイギリスにもたらしたシノワズリーとの関連を分析した。18世紀後半以降の自然史の方法論に強い影響を受けた民俗学的な使節団の観察や記録が、どのようにイギリスの美意識や美学に影響をもたらしたのか、さらにそれがどのようにコールリッジの地政学的な視座を形作って行ったのかを探求した。この国際学会での研究発表はSelected Paperとして選ばれ、Coleridge, Romanticism and the OrientのタイトルでThe Continuum International Publishingから出版されることになった。
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