本研究の最終年度となる本年度は、今までの研究成果を踏まえつつ、成熟し切った国民祝典劇・国民記念碑の形態を、第一次世界大戦前まで分析・考察した。成熟期を経たドイツ国民祝典劇は、19世紀転換期から20世紀にかけて、懐古的で反動的な内容や、風刺的内容を見せ始めるが、本年度はその実態の究明に最大の重点が置かれた。最終段階を迎えた祝典劇には、様々な形態が現れ、新たに即位した皇帝ヴィルヘルムII世の意向も加わり、一部の祝典劇は作品の様式美を追求し、宮廷を礼賛する傾向が再び顕著になってくる。そうした作品の代表的なものが、フランツ・ビュットナーの『ドイツの聖ミヒャエル』(1896)とヨーゼフ・ラウフ『城塞伯爵』(1897)である。いわば「先祖がえり」したともいえるこれらの祝典劇の根本的特長とその精神的背景を、本研究では第一次世界大戦を前にして急速に高まりつつあったドイツ愛国精神に見出した。同時に、20世紀に入り爛熟期を迎えた祝典劇に「パロディ祝典劇」が登場するのも興味深い。当時流行し始めたベルリン・キャバレー文学は、時の社会精神を椰揄することをその旨としたわけであるから、愛国精神の文学的発露であった祝典劇を風刺しない筈がなかった。従って、その代表的存在であった小劇場「シャル・オント・ラウフ」や「ベーゼ・ブーベン」が創り上げたパロディ祝典劇の数々には、愛国精神を冷ややかに傍観し笑い飛ばす強烈な風刺精神が認められ、世紀転換期文学の新たな典型的一形態と見なし得る。一方、国民記念碑研究においては、本年度は「キュフホイザー記念碑」へと分析の対象を広げ、いよいよ現れてくるドイツ国民記念碑独特の「塊」的構造スタイルの本質的設計意図とその背景を分析したが、研究結果の公刊までにはまだ至らなかった。
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