本研究は、前回研究(平成17-19年度基盤研究C「近代ドイツにおける精神的及び物質的モニュメント(祝典劇・記念碑)の諸相を探る」)の成果を踏まえ、古典主義(ゲーテ・シラー)時代の祝典劇研究から開始し、近代(19世紀初頭から20世紀初頭まで)におけるドイツの祝典劇及び記念碑の個別的成立背景とその意義、また両者の関連性(成立経緯・モティーフなど)を調査・比較・分析し、これらのモニュメントをドイツ精神史の流れの中に位置づけることを目的とする。それにより、後のナチズムの核となった狂信的愛国心へとつながる19世紀転換期におけるドイツ固有の国民意識の実体を究明したい。また、前研究と合わせて、中世よりのドイツ祝典劇・記念碑の全貌を明らかにすることができれば、本研究の大きな成果となるであろう。特に祝典劇に関しては、ひとつの文学的ジャンルと捉え、その発展過程を解明する計画である。 また、個別的な記念碑研究に関しては、19世紀転換期にかけて国民記念碑が大型化した後、20世紀初頭には、ドイツ全土にビスマルクを礼賛した「ビスマルク塔」なる(ビスマルク像を掲げない)モニュメントが続々と建設された。ビスマルクは祝典劇においてはそれほど脚光を浴びなかったモティーフであるにもかかわらず、なぜこのような奇異な現象が帝国末期のドイツに生じたのか、ビスマルク崇拝に象徴される近代ドイツ特有の精神構造を考察の対象としたい。
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