平成21年度は、前年度に引き続き、資料調査に重点を置き、冬季休業期を利用して、研究対象コーパスの大半を占める「詩学講義」草稿資料(1933年から1937年の準備草稿一巻NAF19086および1937年から1944年の講義草稿資料全十八巻NAF19087-19104の合計十九巻)が所蔵されているフランス国立図書館に赴くことができた。まずマイクロフィルムで各巻の全体に眼を通し、さしあたり重要と思われる部分を筆写していく、という段取りで作業を続けた。膨大な資料をすべて筆写することは不可能なので、実際的には、特に、古典、ポー、レオナルド・ダ・ヴィンチ、象徴主義など、いくつかの具体的な着眼項目を用意して、それらをめぐるヴァレリーのノートを部分的に筆写するべく努めた。結果として、「詩学講義」草稿資料全十八巻のうち、前年度に未見のまま残されていた第七巻以降をひととおり第十八巻まで眼を通し、各巻の内容の概要をメモする作業を終えることができた。比較的早く全体を見通すことができたのは、マイクロフィルム調査の結果、ヴァレリーの「詩学講義資料」の本体部分は第IX巻までであって、この巻以降の合計九巻分は、それぞれ量も少なく、本体の言わば補足資料体であるといってよいことに気がついたからである。第二年度を終えた段階で、研究対象コーパスの全体を概観することができたのは、三年計画の研究の進捗状況としては順調な成果であると考える。今後は、これまでの読み取り上の疑問点を明らかにしながら、ヴァレリーの詩、エッセー、カイエとの関係について、調査を進めていきたい。
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