平成22年度は、本研究の最終年度に当たる。前年度までの資料調査の成果を整理するとともに、未調査部分の調査を完全実行することに重点を置き、長期休業期を利用して、ポール・ヴァレリー「詩学講義」草稿資料(1933年から1937年の準備草稿一巻NAF19086および1937年から1944年の講義草稿資料全十八巻NAF19087-19104の合計十九巻)が所蔵されているフランス国立図書館に赴き、確認と補足の作業を行うことができた。コレージュ・ド・フランスにおけるヴァレリーの「詩学講義」資料のうち、エドガー・ポー、レオナルド・ダ・ヴィンチなど、いくつかの具体的なテーマをめぐる講義のタイプ原稿を今回、完全筆写することができたのは大きな成果である。こうした選択的完全筆写が可能になった理由としては、前年度までの網羅的なマイクロフィルム調査の結果、ヴァレリーの「詩学講義」資料の本体部分は第九巻までであって、この巻以降の合計九巻分は、それぞれ量も少なく、本体の言わば補足資料体であることに気がついた点が大きかったように思われる。また、ヴァレリーおよび象徴主義詩人における詩学の問題をめぐって、パリ第四大学教授のミシェル・ミュラ氏とミシェル・ジャルティ氏の詳しい見解を直接うかがう機会を持つことで、有益な知見を得ることができた点も本年度の大きな成果であった。初年度に「詩学講義」草稿資料全十八巻の第六巻までを、次年度に第七巻以降第十八巻までをサーベイし、最終年度は全体の確認と興味深い資料の完全筆写、そして、補足資料のサーベイと一部筆写を実現することができた。三年計画の本研究は、全体として、きわめて順調に推移したということができよう。今後は、本研究で収集した一次資料を十分に活用しながら、ヴァレリーの詩、エッセー、カイエをめぐって、さらに発展的なかたちで、考察を進めていきたい。
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