1.21年度の作業のうち、敬虔主義や覚醒運動など、近代各時代の人々が死生観や苦しみの理解を表明する際の比喩の伝統などを、文体の側面から見直していく作業を継続した。その際に、そうした伝統形成の背景を培ってきた宗教改革から19世紀に至る範囲の神学論争なども検討しつつ、神義論的問いの兆す場を跡づけた。説教集や賛美歌集なども検証し、「神義論」を文学共同体の修辞的伝統全体のなかに跡づける作業を行った。 2.21年度の作業の内、本研究の要となる「裏返された神義論への転換」を正面に据えて跡づけていく作業へと重心を移し、全体を総括的にまとめるための本格的な作業を行った。修辞的伝統の系譜的研究が単なる懐古的叙述にとどまらないために、現代の表現の問題に関しても積極的な意義付けを行った。ヨッヘン・クレッパー、コンラート・ヴァイス、マリー・ルイーゼ・カシュニッツなどの作品を検証し、そこに先立つ時代と共通する比喩形象の提示を確認した。本来、希望の形象化である「予型論」が「神義論的思考」の変遷という時代の展開の中でも、死生観に関わる重要な比喩形象に留まることを取り上げた。近代初期から現代へと、伝統の批判や継承において文体や修辞の果たしてきた役割を、広く民衆に関わる様々な文献を俯瞰しつつ、明らかにした。 3.9月にドイツのハレにおいて開催された「第10回国際ハーマン学会」において、これまでの成果をその場の打合せや討論に委ね、ドイツの研究水準に照らした評価を受けた。併せて会議の前後に、ハレで18世紀関係の文献、ことに日本では閲覧困難な資料を収集した。研究の協力者であるベルンハルト・ガイェック教授とは、本年は主として文書交換により、これまでの作業を見直し、その上で発展的に開かれる方向性についで討議を行った。
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