本研究では広義の「神義論的思考」をドイツ近現代文学史という歴史のスパンの中で具体的に指摘し、その変遷を系譜的に跡づけることを目指してきた。その一方で、宗教や伝統によって培われた比喩形象やトポス、その修辞・文体様式を整理する作業を併行して行った。こうして、ドイツ近現代文学を「修辞」と「批評」という縦糸・横糸によって織り出されてゆく織物、すなわち伝統の批判・継承の深化を映す図として描き出すことを目指し、通常の文学史が採る固定的叙述から自由な、独自の修辞論的文学史を形作ることを目指した。23年度は22年度の作業のうち、敬虔主義や覚醒運動など、近代各時代の人々が死生観や苦しみの理解を表明する際の比喩の伝統などを、神義論的問いの兆す場として文体の側面から見直す作業をなおも継続した。また、近現代の現象としての「裏返された神義論への転換」を正面から跡づけていく作業を中心に、全体を総括的にまとめるための作業を行った。これまでの研究成果は、『神への問い-ドイツ文学における神義論的思考の由来と行方』『詩人イエス-ドイツ文学から見た聖書詩学・序説』など、そのつど執筆し成果として刊行してきた。現在は、本研究で行った作業方法で達成した成果を統一的俯瞰的に把握しようとしているが、文学史記述における知識社会学的視点の必要など、発展的に開かれた展望をも確認している。最終的には予型論・比喩形象を網羅的に整理し、到達点を『聖書詩学』(仮題)の表題のもとにドイツ近現代文学の変遷として書物に著すことを目指しているが、その過程でなお押さえておくべき課題などを、研究協力者のB・ガイエック教授他、関連分野の研究者と討議、意見交換を重ねている。「詩作品中の〈私〉」や「物語人称」といった文芸論的な研究を参照し、文学史研究における「二人称の問題」に注目しつつ、研究の現段階のまとめと新視点を加えた継続を志している。
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