平成20年度の本研究に関わる作業は、20世紀初頭の技術革新の基礎的な情報を整理することと、そこにおいてブレヒトが自身の演劇の形式・機能をどのように理解していたかを、今後の作業の前提として明らかにすることであった。 その意味では、20世紀初頭の映像を中心としたメディア・テクノロジーの発展と、観客との関係を重視した演劇活動の導入が相互に影響しあいながら、現在の学術的視点からすれば「パフォーマンス的転回」と呼べるような芸術コミュニケーション論上の大きなパースペクティヴ転換があったことを確認できたのは成果である。 20年度は、その知見をもとに、一昨年度の学会での発表も踏まえてブレヒトの演劇コンセプトにおける芸術コミュニケーション的方法を、「身ぶり」への注目によるメタレベルからの批判的介入として整理し、論文にまとめ発表することができたが、同時に、当時の芸術状況のなかで、演劇がよりパフォーマンスを、つまり、観客とのコミュニケーションを志向するようになり、その前提として発展しつつあるメディア・テクノロジーや技術を持っている芸術家・技術者の諸成果が、ブレヒトを筆頭とする演劇実践者たちに活用されていることが、諸文献において確認することができた。 その成果、まずは20世紀初頭のパフォーマンス的転回を含めた、新しいパフォーマンスの理論である、ドイツの演劇学者エリカ・フィッシャー・リヒテ著の『パフォーマンスの美学』の翻訳として、21年度秋に公刊される予定である。
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