平成22年度は本研究課題の最終年度であった。本年度は、ノヴァーリスからパウル・シェアバルトに至るドイツ近代文学における庭園モチーフの研究をさらに深化させた。 庭園および庭園モチーフにおいては自然と人工の対立が問題になることはすでに明らかにした。この対立はドイツ文学において19世紀末、S.ゲオルゲの詩「アルガバル」(1891年)とH.v.ホーフマンスタール「私の庭」(1891年)において一つの頂点を迎える。一般にドイツ・ロマン派に始まる人工庭園の系譜(たとえばE.T.A.ホフマン)は、芸術の象徴としてゲオルゲの「アルガバル」に極まると関連研究は指摘している。しかし、本研究は、ドイツ近代文学における人工庭園のモチーフには二種類あり、一つは芸術の象徴としての庭園であり、もう一つがユートピア(=楽園)としての人工庭園の系譜であることを解明した。後者がノヴァーリスからシェアバルトに至る系譜である。 本年度は、後者の系譜をとりわけノヴァーリスの未完の小説『ハインリヒ・フォン・オフターディンゲン』(1800年)第9章の庭園描写とシェアバルトの「フローラ・モール」(1912年)を初めとする諸作品に現れる庭園描写に跡づけ、両者に共通するユートピアを指し示す表徴がノヴァーリスにあっては氷に反射する光であり、シェアバルトにおいてはステンドグラスを想起させるガラスを透過する「和みのある光」であることを明らかにした。このことによって本研究が、ドイツ近代文学における庭園モチーフの研究に新しい知見をもたらしたと言うことができる。
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