本研究は、19世紀後半から20 世紀初めのロシアにおけるいくつかの文化的・社会的実践をとりあげ、身体と表象の関係のあり方が世紀転換期を境に大きく変化したことを検証するために、芸術、法、心理学の境界領域に学際的なアプローチを試みるものである。分析を進めるにあたっては、身体は文化の外部に想定される与件ではなく、逆に、芸術/権力/知/メディアなどの諸実践のただなかで構成され、変形されるものであるというフーコー的な方法論的仮説に立ち、芸術(告白文学の変化、抽象絵画の誕生)、法(刑事訴訟法における自白と証言をめぐる諸手続きの変化)、心理学(証言の信憑性に関する心理学的研究、視覚の生理学)の境界領域に学際的なアプローチを試みる。 具体的な課題は以下の通りである。 (1)19世紀後半における「告白=自白confession」の文化的・法的地位の変化を明らかにすること。 (2)身体をめぐる諸科学(心理学・生理学・反射学ほか)が、ドストエフスキーをはじめとする19世紀文学や、マレーヴィチをはじめとする20世紀芸術と結ぶ関係を考察すること。 (3)身体と表象の関係に関する理論的著作の批判的検討をおこなうこと。
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