ファン・フェーン『愛のエンブレム』の読者は、(1)図絵と短詩の意味について吟味し、エンブレムの典拠を調べ、エンブレムに自らのテクストに書き加えることを強いられているという仮説に基づき、(2)ここで読者に要請されている創造的読解は、芸術家ツッカリの「内的意匠」に根ざしていると推測した。 (1)の「典拠」について、これまで欧米の研究者によって不明とされてきたものを数多く発見した。この成果の一部をエンブレム情報の総合サイトの責任者であるストロンクス博士(ユトレヒト大学教授)と面談し報告した。あわせて「短詩」の英文訳について誤訳が多出していることも指摘し、サイトに反映されることになった。また『愛のエンブレム』を完訳させ(2011年11月)、各エンブレムのメッセージと類似する同時代の絵画作品を発掘した。この過程で、「短詩」はフェーンによる古典からの出典に意図的に創造的改変を加えた「書き加え」というよりも、古典などの材源を別文脈に移す「置き換え」であることを突き止め、これを国際学会において発表するのと並行して、長文の論文(約2万字)にしてまとめた。 (2)の「創造的読解」は、広い枠組みとしてはむしろ創造に対置される「模倣願望」(ロジェ・カイヨワ)とバロック期における「全体性への到達不可能感覚」(ワルター・ベンヤミン)によって説明すべきもので、「内的意匠」からは説明困難であることが判明した。そしてこのような願望と感覚が、実際にフェーンの作品を模倣した末裔たちによって受け継がれていることを、上記の論文において解明した。
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