ギリシア・ローマの歴史書や哲学書に見られる異民族・異宗教との共存・共生および戦争における敗者や犯罪者に対する寛恕の精神の形成について検証する。 (1)ギリシア古典期のヘロドトス『歴史』やクセノポン『キュロスの教育』における狭隘な民族主義を超えた人間観、ヘレニズム期のポリュビオス『歴史』における世界国家思想を検討した。 (2)ホメロス『イリアス』『オデュッセイア』、ウェルギリウス『アエネイス』、ユリウス・カエサル『ガリア戦記』『内乱記』、キケロの演説と哲学書、サッルスティウス『カティリーナ戦記』『ユグルタ戦記』、セネカ『恩恵について』『寛恕について』を対象として、異民族との共存・共生および戦争における敗者や犯罪者に対する寛恕の精神の形成について分析した。 (3)西洋古代における異民族との共存・共生のあり方および戦争の罪責と敗者への寛恕の精神の特質を比較文明論的に明らかにするために、20世紀の中国大陸における日本人の戦争加害と戦後裁判などの実態にもとづきながら、戦争と共生をめぐる現代史の動向とギリシア・ローマ文学との接点を模索して論考にまとめた。また、同じく比較文明論的観点から、韓国における近代日本の植民地政策と朝鮮民族の抗日独立運動について現地調査を行なった。 (4)地中海アジアにおけるギリシア・ローマ文明と異民族文化との接触と共生に関する調査のため、トルコ共和国のマルマラ海沿岸地域と黒海沿岸地域に位置するヒッタイト時代、ペルシア帝国時代、ヘレニズム・ローマ時代、ビザンチン時代の歴史的遺物等を保存した考古学博物館や古代・中世遺跡を訪問し、文字文献資料を収集するとともに、地理的景観・発掘出土品・遺構・墳墓群等を対象とした詳細な多数の画像資料を作成した。
|