研究概要 |
本計画の趣旨に沿い、本年度はとりわけユリの花とその色が想起させるものについてローマ文学との関連を論じ、論文を発表した。本年度の研究で明らかになったことは以下のようなことがらである。 ロンサールは王家を示すユリを一般的なlis d'orという名称では使用しておらず、使用例は読解を通じてしか見つかられないが、本年度の研究では、この王家のユリのすべての例を示した。それらを検討すると、ロンサールは王家のユリの「色」を示すことは一度として行なっておらず、例外はクロービスのユリの場合の一例のみである。 ユリの色の基本的な意味付けは「白」である。これにより、ユリを使用することで女性および男性の肌の白さを表すことができる。ユリを赤いバラや赤いカーネーションと組み合わせて利用することにより、ほんのりと赤みを帯びた白い肌の描写を行っている。とりわけ白と赤のコントラストを巧みに使い、色の名前を用いずに「白」、「ほんのりと赤い白」を連想させている。ロンサールは、一度だけ、アンリ二世の死の悲しみを表現するために「黒いユリ」を比喩的に使用している。 参考にした両版にないものとして以下のような注釈を加えることができる。 1.ローモニエ全集第5巻、p.236, A la fonteine Belerie, v.63-64 《Et son beau cors, qui resenble/Aus lis & roses ensenble》に関して、同様な表現が、ローモニエ全集第2巻,p.164, Bocage de 1550, III, A Cassandre, v.19-20に認められる。 2.ローモニエ全集第13巻,p.98, Bergerie dediee a la Majeste de la Royne d'Escosse, v.447-450に関しては、Calpurniusが恋人の不在の悲しみを黒いユリで表現している。出典はCalpurnius, Eglogues, 3. v.45-48, "te sine, vaemisero, mihi lilia nigra videntur/nec sapiunt fontes et acescunt vina bibenti./at si tu venias, et candida lilia fient/et sapient fontes et dulcia vina bibentufと考えられる。 3.クレオールのインデックスがあげる136例のユリの出現回数には、一つだけ地名が含まれている。ローモニエ全集第8巻,p.230, v.15の《[Le]Lys》は地名である。 上記の結果は、ロンサール関しては、ユリの花を中心とした網羅的な研究が無い現状では貴重なものであり、さらに、権威あるローモニエ版、プレイヤード版の触れていない部分を注として補った点で意味あることである。
|