本研究では、コルネイユ劇と当時のフランス社会の関係の中でも、特に庇護者であったリシュリュー、マザラン等が彼の演劇創造に及ぼした影響に注目した。三十年戦争やフロンドの乱の最中、コルネイユは庇護者たちを巡る政治的現実を作品に投影することで観客の興味を高めると同時に、見事に完成された芸術的形式を借りて、庇護者たちを賛美し支持する姿勢を明らかにした。しかし激動する社会の中で、彼らを支持することが己の不利になると、かつての庇護者たちを作中で貶めることも恐れなかった。その意味で彼は絶対主義の忠実な支持者ではなく、オポチュニストとして振舞いながら創作活動を行ったのである。
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