研究の初年度にあたる本年は、モデルネがポテンツとして胚胎する神秘主義的系譜の一源流を成すフェヒナー思想と生涯のアウトラインを描出するために、フェヒナーに関する代表的な評伝(ドイツ最初のSF作家といわれるクルト・ラスヴィッツ、実験心理学者のヴィルヘルム・ヴント、フェヒナーの甥であるヨハネス・クンツェ、作家ヴィルヘルム・ベルシェによる4点)、ならびに先行研究の伝記的記述に基づき、フェヒナーの思想と生涯のあらましを2回の口頭発表においてまとめた。これら口頭発表の原稿は21年度に活字にして発表する予定である。 また、普通3期に区分されるフェヒナーの生涯のうち、その第1期に発表され、少ないながらも今なお読者を獲得しているフェヒナーの小論文『死後の生活に関する小冊子』を検討し、後期から晩年にかけて矢継ぎ早に出版された精神物理学的かつ汎神論・汎心論的な諸著作の萌芽が見られることを分析した。 さらにフェヒナーに少し先行する時代の自然哲学、特にローレンツ・オーケンおよびシェリングのそれを検討し、それらがフェヒナーにどのような影響を与えたのかを検討した。ただしシェリングに関しては、ドイツ観念論哲学が非常に難解であるうえ、カント、フィヒテに遡って考察を加える必要があるため、まだ理解が不十分であり、さらなる検討が必要となる。 フェヒナーの思想はフロイトやマッハを通じて、特にオーストリア=ハンガリー二重帝国(カカーニエン)の思想や文学に多大な影響を与えているにも関わらず、日本ではほとんど注目されることがなかった。本年度の研究において、この多大な影響を解明する端緒を、わずかではあるが開くことができた。
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