初年度である本年度は、まず本研究に関連する先行諸研究の調査と概観ならびに「創造的模倣」など文学創作の手法や原理に関わる古代修辞学および文芸論上の諸著作の概観を行い、また模倣と独創の様相が最も顕著に現れる修辞技法と文体論的諸特徴に関しても、ギリシア・ローマ文学の各種文芸ジャンルとの関連に着目しつつ概観した。次いで「創造的模倣」の実例として、エウリーピデースの『メーデイア』とセネカの『メーデーア』、アルカイオスとホラーティウス、カッリマコスの讃歌とティブッルスのエレゲイア詩などを比較検討すべき対象作品として選定した。これらの作品について、まずは文献学的基礎作業として写本伝承史および本文校訂論の分野での諸研究を調査した上で、当該テクストに関する可能な限り綿密・着実な読解を行った。また、措辞・語法、韻律、叙述技法、トポス、文体論的特徴、作品構成など形式と内容の両面にわたる多様な観点からの観察と分析を進めた。原文の異読や欄外注の確認など文献学的にも厳密な読解に努め、当該テクストと関連する類似箇所、並行例などについても同様の読解作業と関連箇所を含む作品全体との比較検討を行い、当該作品が先行作品からどのような要素を模倣しまた先例とは異なる新たな工夫をどのように凝らしているかを考察した。こうした個別作品に関する研究と並行して、必要となる各種文献の選定と購入を進めた。
|