研究計画に基づき、本年度も継続して「創造的模倣」に関わる古代修辞学や現代文芸理論の概観を行い、次いでギリシア文学とラテン文学の間で相互に関連する作品を比較検討する作業を行った。本年度は特に『イーリアス』第11巻などにおけるネストールの語る物語部分とオウィディウス『変身物語』第12巻でやはりネストールが語る物語の部分とを、またアリストパネースの『蛙』とホラーティウス『風刺詩』第1巻4、10歌における文芸批評詩的な部分とを読み比べた。その成果の一部は佐野好則の学会発表とそれに基づく学会誌掲載の論文の形に結実した。さらに両研究者は各自でプラトン『国家』と他の著作との関連を考察する研究を行い、佐野は『国家』第4巻における正義の定義の背景として初期自然思想やヘーシオドスとの関連を指摘する考察結果を国際プラトン学会で発表するとともに、『理想』の「プラトンの「国家」論」特集号所収の論文にまとめた。大芝もまた同じ『理想』特集号でプラトンの『国家』がキケローの『国家論』に与えた影響関係を検討する論考を発表し、いわゆる「洞窟の比喩」がキケロー『国家論』冒頭の序や末尾の「スキーピオーの夢」における統治の責務の重要さを訴える趣旨に示唆を与えた可能性を指摘した。本年度はオクスフォード大学のS.Harrison教授を首都大学の研究室にお招きしてカトゥッルスのテクストに関する演習を拝聴する機会を得るなど充実した研究を行うことができた。本研究課題は本年が最終年度であるため、最後に三年間の研究を回顧し、「創造的模倣」の検討を踏まえた上で今後は西洋古典文学の「伝統と革新」の問題の考察をさらに「ジャンル混交論」の観点から継続して行うことを確認した。
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