前年度までの研究でいわゆる「ロシア・ルネサンス」の時代のロシア思想に共通して見出される深層の構造を明らかにしてきたが、最終年度となる24年度にはニコライ・ベルジャーエフの思想を取り上げ、彼の思想にも同時代の思想と同様の構造が見いだされるのかどうかを検討した。 ベルジャーエフの思想は「ロシア・ルネサンス」の時代の典型的な思想とは一見して異なった特徴を持っており、少なくとも表面的に見る限り、両者は同一のタイプの思想ではなく、互いに対立しあうような思想であるように見える。我々はベルジャーエフとその同時代の思想の間にあるそうした異質性を明らかにしたうえで、それにもかかわらず、ベルジャーエフの思想も他の思想と同じような志向に促されながら形成された思想であり(具体的に言えば、①人間の意識を介する前のありのままの実在に触れようとする志向、②そうした実在をカオスではなく、コスモスとみなそうとする志向)、表面的な表れは異なるものの、同時代の思想と同じ方向に導かれているということ明らかにした。 ベルジャーエフという一見異質に見える思想家の思想を検討したことで、「ロシア・ルネサンス」の思想に共通する潜在的な構造を明らかにしようとする我々の研究はより包括的なものになったし、またベルジャーエフ研究という点から見ても、同時代の思想との関係というこれまであまり重視されてこなかった観点から光を当てることで、これまでの研究では見落とされていたベルジャーエフ思想の重要な側面を解明することができたと考えている(たとえばベルジャーエフの言う「自由」が絶え間なき生成過程にある根源的な実在=生としての意味を持っていること)。 こうした研究成果は、北海道大学で行われた別の科研費研究の研究会で口頭で発表し、さらには論文の形にして学術雑誌『スラヴ研究』第60号に投稿し、審査の結果、論文として掲載されることになっている。
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