当該年度における研究の目的・実施計画として、まず1に挙げておいた「コーパスの設定」であるが、これについては、当初、シュルレアリスム等前衛派の作家たちのことを念頭に置いていたが、研究の過程で「外国語(外国出身)」というキーワードの重要性に着目した。20世紀前衛派のはしりとも言えるアポリネール自身ポーランドの血を引くイタリア生まれという出自をもっているが、ダダの始祖ツァラを始め、シュルレアリスムにはルーマニア系の詩人たちも多い。そこで今後の研究の方向として、言語実験と「外国語」との関わりにポイントを置くことにした。 その一環と言えると思うが、具体的な実績として、当該年度の秋に、カナダ(英語圏)出身の仏語作家ナンシー・ヒューストンが来日したことに合わせて、東京日仏学院での公開対談の司会・聞き手役として参加することができた(10月23日)。英仏両語で創作し、ベケットについての著書などもある作家と、バイリンガリズムと創作の関係について対話することができ、聴衆にとっても本研究者にとっても、興味深い機会となった。併せて、雑誌『ふらんす』誌上にヒューストンの小説に関するエッセイを発表した(2008年9月号)。 ほかには、秋に渡仏した際、作家フランソワ・ボンと会い、話をうかがうことができた。 また、フランスにおける言語実験の巨人とも言える20世紀の作家ジョルジュ・ペレックの遺作となった『53日』の制作ノートなどの研究を進め、この小説の翻訳を出版する計画を日本の出版社と進めている。
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